【推荐1】この時期にはいわゆる五月病に関する原稿を依頼されることが多い。五月病は私が若いころに使われるようになった言葉だ。記憶では、大学に新しく入った若者が目標を失った時に起きる精神的な不調によく使われていたように思う。

まだ大学進学率が高くなかったころの話だ。憧れの大学に入り、専門的な勉強ができると期待に胸を膨らませていた若者が、何百人も入る大教室で行われる一方的な講義に失望してしまう。

このような状態になるのは大学生に限ったことではない。職場などでも私たちは新しい環境に馴染むためにかなりエネルギーが必要になる。特に他の人の気持ちを大切にする傾向が強い人ほど、新しい環境で疲れを感じやすいので、注意が必要だ。

新しい環境の仕組みやしきたり、他の人の考えもよく分からない。スムーズに仕事をしたいし、他の人と摩擦を起こしたくない。そう考えて発言・行動するが、それがその場にあっているかどうかもよく分からない。そのような時少しでもうまく行かないことがあると、大きな問題のように思えてくる。

いつの間にか一人相撲を取るようになり、ますます疲弊してしまう。このようなときは目の前の問題から少し距離を置き、自分がもともと期待していたことをもう一度確認してみるとよい。

期待があったからこそ、失望もあるのだ。現実は期待通りに進まないこともあるが、期待を意識し、実現するための方策を考えることで、期待に近づくことができるようになるし、心も元気になってくる。

【推荐2】大学受験をする時や、就職活動をしている時は、「学歴はなにもより重要だ！」と思う人がたくさんです。たしかに、学歴は高い方が就職試験を受けられる会社の数が増えますし、行きたい会社に入れる可能性も高くなるでしょう。大学の勉強を頑張ると未来の選択の幅が広がるのは一つの事実で、学歴は就職するときに有効な一種の資格です。（ア）、当たり前のことですが、学歴が一番大事なものではありません。自分のやりたい仕事を探して、充実した毎日を送れるかどうかは学歴には関係ないことがわかりました。

「 今、やっている仕事が好きですか」と聞いた中に「好きです」と答えた人の中では、学歴が高い人も低い人も同じ割合でいることがわかったのです。（イ）一番大切なのは、自分が何をやりたいか、ちゃんと考えて生きているかどうかというものです。

勉強さえしていれば自分に適した仕事を誰かが与えてくれありません。学校の勉強を頑張りながら、自分がどんな生活をしたいか考えていくことが大切なのです。

【推荐3】これまでの外国語教育では、コミュニケーションが重視されてきました。ここに言うコミュニケーションとは、①実用的なコミュニケーションをすることと、他の人に自分の意思を伝えることです。コミュニケーションは言語の重要な役割であることは間違いありません。しかし、言語にはもう1つのとても重要な役割があります。言語は、人間の思考や意識と直接に関わっているのです。

わたしたちは、小学校から大学までの教育で、授業や講義を聞いたり教科書を読んだりして勉強してきました。（ア）、両親や周りの大人、さらには先輩や友人などから会話を通して教えられたこともたくさんあります。また、ネットからもたくさんの知識や情報を得てきました。これらのメディアでは、図や表やイラストや写真などとともに、話された言葉と書かれた言葉がひじょうに重要な位置を占めています。現在に至るわたしたちの個人史を振り返ると、②そこで言語が重要な役割を果たしていることがわかります。そして、言語に媒介された経験は蓄積されて、現在の③「わたし」の思考や意識の素材になっているのです。

その後の哲学に大きな影響を与えたウィトゲンシュタイン（維特根斯坦）は、わたしたちは言語で考えるしかなく、言語で考えることを超えて考えることはできないと言いました。ロシア心理学の基礎を築いたヴィゴッキー（維果斯基）は、思考を発達させるためには、言語を媒介にしてより有能な他者といっしょに考えることが必要だと主張しました。言語は人間の思考や意識そのものを形成し、それをより洗練させるのです。