1 . 家は数メートルの崖の上にある。崖は石垣(石围墙)になって、たまに下から見上げるとなかなか気分がいい。ところが、気分がよいのはそこまでである。
石垣の下は道路であるが、駅のある繁華街方面へは上の道を通って行くため、我が家の人間がこの道路を利用することはめったにない。でも、石垣の下の、道路沿いの溝は、我が家の人間が掃除しなければならない。石垣の上の我が家の庭から石垣の下へものを落とすことは不可能なのだが、そういうことが決められているからしかたがない。月に二度、妻が不平を言いながら掃除に降りて行く。この溝には、タバコの吸殻、菓子袋、ミカンの皮などが捨ててある。日本人の公衆道徳のなさを見る思いである。中にはわざわざ捨てに来たようなものが捨ててあることもある。
( ア )、テレビが捨てられたこともある。妻の話によれば、「これ何か」といって妻の頼みで通行した五、六人が崖下で親切に回収業者のところに持っていってくれたのであろう。こちらは助かった。もちろん、他人の迷惑を考える能力はあるのだろうが、テレビの無法投棄行為をした人はむしろ他人の迷惑を面白がる人間なのであろう。
サラリーマンはごみの捨て場に困り、電車の網棚の上へわざと置き忘れてしまう。こういうのが最近多いそうだが、本人はしていることが公衆道徳に反することだと知ってやっているかもしれない。家庭できびしく教育された男が大学へ入ってたちまち反動的に周囲の蛮カラ(粗野的)風に染まって汚いことを平気でやりはじめることがある。教養だって役に立っていないと思う。
1.
文中に「我が家の人間がこの道路を利用することはめったにない」とあるが、それはなぜか、A.家の周辺の風景を楽しむには、石垣の上の道を行かなければならないから |
B.駅のある繁華街のほうへ行くと、いつも石垣の上の道を通るようにしていますから |
C.石垣の下の道から石を見上げる時のいい気分がすぐ消えてしまうから |
D.石垣の下の道沿いにはいつもミカンの皮などのゴミが捨てられているから |
2.
文中に「そういう」とあるが、どういうことを指すか。A.妻は月に2回くらい不平を言いながら溝の掃除に行くこと |
B.崖下の溝にタバコの吸殻や菓子袋などの色々なゴミが捨てられること |
C.石垣の上の我が家の庭から石垣の下へものを落としてはいけないこと |
D.自分がゴミを落とさなくても溝の掃除の責任を負わなければならないこと |
3.
文中の( ア )に入れるのに最も適当なものはどれか。4.
文中に「こちらは助かった」とあるが、それはなぜか。A.ゴミとして捨てられたテレビを処理しなくてもいいから |
B.捨てられたテレビをもう自分の家に捨って来なくてもいいから |
C.勝手にテレビを捨てることに不満を持っている人がほかにもいたから |
D.妻の頼みでテレビを回収業者のところに運んでくれた人がいたから |
5.
この文章の内容に合っているものはどれか。A.テレビの無法投棄行為が日本人の公衆道徳のなさの表われではない。 |
B.汚いことを平気でやっている人はみな他人の迷惑を考える能力のない人である。 |
C.家庭で厳しく教育された人でも公衆道徳に反するようなことをすることがある。 |
D.電車の中のゴミ袋の置き忘れが一概にその人の故意による行為だとは言える。 |