6 . 明日からは着ることのない制服を前にして、息子は黙っていた。
卒業は何も突然やって来たわけではない。むしろ入試が終わると、「もうすぐ卒業するんだなあ」と卒業を待ち、高校での新しい生活を夢見たのではなかったか。それなのに卒業式、謝恩式を終えて帰宅した息子は、ひどく口が重くなっていた。
夕食後の風呂あがりに息子は私に、「お母さん、何か言うことない?」と聞いた。私はわざと、「何もないよ。ごめんね」と答えた。
私にも息子の感傷は経験上分かるが、それだけである。先生や友人、学校での数々の思い出を、そのまま共感してやることはできない。それはもう、私の知る世界ではないからだ。
「こんな日はね、一人でいる方がいいよ。たぶんお母さんと何かを話しても、どうしようもないよ。」
「…そうだね、もう寝る。」
悩みや相談なら、自分が言い出すことで楽になったり考え方が変わったりする。( ア )、感傷や思い出というものは、人に話してもどうしようもなく、実際、言葉にすればするほど心から離れたものになってゆく。
分かってもらえないことがあると知ることで思い出が深まっていくのだと。いずれ息子も知るだろう。大切な思い出ほど、人は人に語りたくないものなのだ。
1.
文中に「息子は黙っていた」とあるが、それはなぜか。。A.前にした制服が着たことがないから |
B.卒業が突然やってきたから |
C.高校での新しい生活が夢見なかったから |
D.卒業して悲しいから |
2.
文中の( ア )に入れるのに最も適当なものはどれか。3.
文中に「私にも息子の感傷は経験上分かるが、それだけである。」とあるが、その意味はどれか。A.私にも息子と似た経験があり、息子の感傷を理解することができる。 |
B.息子の気持ちは理解できるが、まったく同じ感情を抱くことはできない。 |
C.私にも卒業時期の思い出があるが、息子の感傷を理解することができない。 |
D.私にも卒業の経験があるが、それは昔のことで息子にとって参考にならない。 |
4.
文中に「分かってもらえないこと」とあるが、それはどんなことか。A.進路を決めるときの悩み |
B.どの店に入るかの選択 |
C.友人と別れる時の悲しみ |
D.どの大学に進学するかの相談 |
5.
文章の内容と合っているのはどれか。A.筆者は息子の卒業を期待していた |
B.筆者の息子は今年で高校を卒業した |
C.筆者は息子のような経験を持っていなかった |
D.筆者は悲しんでいる息子をそのままにした |