1 . 先日、①半分用事もあって、友人たちといっしょに信州追分へ五日ほど行ってきた。追分は、夏は大勢の避暑客がおとずれる軽井沢のはずれにある。たった二駅だが、そんな季節でも中心地の賑わいからは離れ、ひっそりとした山奥の雰囲気があって好きな所だ。美しい新緑が見られるのを楽しみにして行ったが、新緑はもちろん美しかったし、また、夏には知らずにいることが初めて分かったりもした。
軽井沢を通るとき、沿線になし(梨)の花に似た白い花の木があちこちに見えていた。似ているけれど、なしとも違うような気がする。何の花だろう、綺麗だねとみんなで話し合っていた。追分へ着いてから、さっそく友だちの一人が、近所の土地でその花を見つけて、一枝折ってきた。淡紅(たんこう)の小さな花が枝いっぱいについて、素朴な可憐さである。
「小なしやそう[注1]よ。何本もあるわ。」と大阪から来た友人が言うので、私も小なしの花を見に出かけた。土地の人は、こんな木どこにもある、と言って、私たちが珍しがるのを笑っている。真つ白の花もあり、淡紅もあって、ふだんはだれがながめるでもない場所にいっぱい咲いていた。が、注意して見始めると、②そこまで行ってながめるまでもなく、近くでもたくさん咲いている。
夏は、なんの雑木やらと気にもかけずにいた木である。松や落葉樹や白樺に混じっているそんな雑木には目もくれずにいたのに、その木がこの季節には、こんな美しい花をつけるのかと分かって、③小なしの木にすまないことをしたような気がした。また夏には、あやめ(菖蒲),やはぎ(萩)やその他いろいろな野の花が咲くが、今はそのあやめが小さな愛らしい葉を出している。うっかりすると足の下に踏みそうになってしまった。ぴっくりして足を止めた。なんという私などはうっかりものだろうと思う。花が咲いていなければ目につかずに、花の終わった木は雑木かと思い、これから紫の花をつける新しい芽は、道端の草かと踏みそうになる。
そのくせ、小なしの花の美しさには、得がたいほどの思いをして、東京まで持ち帰った。
汽車を降りてわが家まで来る途中、町の花屋の前で、友達が言う。
「山の花を見てきたら、花屋の花が造花みたいで、なんや、ちっとも美しゅうない「注2]わ。」
それを聞くと確かにそんな気もするが、わが家の花びんに、大輪の白いしゃくやく(芍薬)が三本生けてあるのを見たら、やはり美しいと思った。そして私は、山で折ってきた小なしの枝を花びんに生けた。それは、しゃくやくとはまた別の感じで、ここでも美しかった。なにげなく見過ごしていた木も、季節にはこの美しい花をつけるのだと気づくと、なにか④私は自分の心に一つ拾いものをしたような気になる。
注:1小なしやそう/小なしだそうだ。 2美しゅうない/美しくない。
1.①半分用事もあってとはどういう意味か。
A.仕事を半分して |
B.半分し残した仕事がある |
C.用事をすることも兼ねて |
D.友人と半分ずつ用事を持つ |
A.信州追分というところ |
B.土地の人が教えてくれたところ |
C.軽井沢の沿線のところ |
D.友だちが花を折ってきたところ |
A.あやめやはぎよりも美しい小なしの花に気づかなかった悔しい気持ち |
B.信州追分に来るまで小なしの花の美しさを知らないでいた悔しい気持ち |
C.あやめやはぎ、そしてしやくやくに関心を寄せている行為を詫びる気持ち |
D.これまでは、小なしという雑木に目もくれないでいたことを詫びる気持ち |
A.これまで全く価値を感じず、目を止めることもしなかった物に、思いがけない美しさを発見してうれしくなったという意味 |
B.すでに自分が持っているものにさらに新しいものを増やすことができて心がいっそう豊かになって幸せに感じるという意味 |
C.あやめやはぎなどしか知らなかった筆者が今度の旅によって小なしの花の美しさに接することができたという意味 |
D.家の花びんに生けてあるしやくの中に小なしの花を入れてみたら、これまでにない美しさを発見したという意味 |
A.山にいっぱいに咲いている花のほうがきれいなものだ。 |
B.どこにあっても、花が持っているその美しさは楽しめるのだ。 |
C.小なしなどの花を発見し、これまでにはない貴重な体験をした。 |
D.季節には本当に美しい花をいっぱい咲かせている小なしに気づき感動した。 |
A.ほう | B.もの | C.よう | D.こと |
A.まみれ | B.だらけ | C.ずくめ | D.つもり |
A.へとへと | B.ふわふわ | C.ぺらぺら | D.べたべた |
5 . 変な音がするので、隣の部屋に行って___、猫でした。
A.見ては | B.見なら | C.見れば | D.見たら |
A.お聞きです | B.聞きたいんです |
C.聞くことです | D.お聞かせです |